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    『アユタヤの堕天使』初日観劇レポート

    淑女たちの「本気」を劇場で体験しないのは一生の損!!


     感染症禍で泣く泣く公演を見送った2020年。2年余を経て、日本演劇界の淑女たちが帰って来た!

     篠井英介、深沢敦、大谷亮介から成る3軒茶屋婦人会は、現代の女方として卓越した美と表現で活躍する篠井と、チャーミングかつコミカルなキャラクターで人気の深沢に、大谷が「自分も女方で芝居がやりたい!」と直訴し、2003年に発足したユニットだ。プロデューサーとして招聘されたはずが第1回から演出を務め、第5回公演『ブライダル』からは3人の意図を汲みつつ戯曲執筆も手掛けているG2も、ユニット内では“第四の婦人”というべき欠かせぬ存在。
     そんな淑女たちの最新作にして復活公演『アユタヤの堕天使』は、7年ぶり(!)7作目となんだか縁起が良い感じ。ちなみに来年は結成20周年という、実は微妙なタイミングでもある。
     そんな『アユタヤ~』の公演初日に参戦した詳細を、下記に報告したい。

    ◆    ◆    ◆

     『アユタヤ~』は、2015年の第6回公演『ス・ワ・ン』と同様3話オムニバス形式の作品だ。一作で3倍楽しめる趣向は、婦人会の良い意味での“欲張り”の表れか。今回は20世紀初頭の京都・祇園が舞台の『雪の決断』、泥沼化した日中戦争末期の上海に生きる女優3人の会話から世界情勢が垣間見える『上海蜂蜜女間諜(ハニートラッパー)』、そして現代のタイ・アユタヤで学生時代からの女友達3人がひょんなことから人生を見つめ直す『アユタヤの堕天使(アラフォー)』の3編で構成されている。

    エピソード1『雪の決断』
    エピソード1『雪の決断』

     エピソード1『雪の決断』は3人ともに着物姿。
     幕開きは、舞台となるホテルの女給(ボーイ)として和装+エプロン姿がキュートな深沢、置屋の女将として渋い着こなしと落ち着いた振る舞いでしっとり魅せる大谷二人の会話から。遅れて登場した篠井の華やかな芸妓の装いと所作に、客席から拍手が起こる。
     来日中のアメリカの大富豪に見初められた芸妓ユキの物語は史実がベースで、世間の好奇の視線にさらされるユキの中で起こる心情の変化や、女性が生きるうえで時代を越えて突きつけられる愛と現実の狭間での苦悩が、3人の掛け合いからリアルに浮かび上がって来る。


     続く『上海蜂蜜女間諜』は、妖艶なチャイナドレスに身を包んだ3人によるサスペンス。
     上海につくられた国策映画会社・中華電影の撮影所で、大部屋扱いの三女優には実は裏の顔があり……という謎めいた初動から、意外や、女優としてのプライドや覚悟についての会話に転じる展開にワクワクさせられる。エピソード1と同様、迫る戦争の足音がドラマの底に流れ、戦禍が日々報じられる現在と呼応するあたりG2の筆の冴えが見て取れる。
    エピソード2『上海蜂蜜女間諜』 エピソード2『上海蜂蜜女間諜』

     ラストの『アユタヤの堕天使』は一転、タイの古都アユタヤで再会する大学の同級生3人の会話から、現代の日本社会が女性に無意識に共生しているアレコレが見えてくる。
     困難を極めた就職活動、打算による結婚、別天地を求めた海外暮らし。折々に自分なりの選択と多少の努力はしたものの、アラフォーの今、彼女たちは3人ともに「こんなはずじゃなかった……」という想いに駆られている。ならば次なる一歩を、かけがえのない友と踏み出すのもアリでは、という彼女たちが選ぶ新たな「門出」は、同じ想いを少なからず抱えている性別にかかわりない人々の、背中をグイと押してくれるように感じた。
    エピソード3『アユタヤの堕天使』

    ◆    ◆    ◆

     それぞれのエピソードの中に、篠井の日本舞踊、深沢の歌、大谷のウクレレ演奏など3人それぞれの「武器」が織り込まれているのも味わいどころ。結果、一作を3倍どころか3編の3乗倍くらいに観客のお楽しみは増えていたと、勢いある拍手と笑い声で満たされた劇場内の空気が雄弁に語っていた。
     演劇はナマ=ライヴで観てこそ真価が発揮されるものだが、3軒茶屋婦人会の作品はそれが肌身に感じられるエネルギーと熱を放っている。こんなにも女の愚かさやずるさ、哀しさやチャーミングさ、それらの芯となるたくましさをリアルかつ嫌味なく舞台に乗せられるのは婦人会の「本気」ゆえ。是非その「本気」を劇場で共有していただきたい。

    取材・執筆 尾上そら 




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